Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “鬼も黙っちゃうかもしれない”
 


節分です。
鬼は外、です。
ファンタジーの世界じゃあるまいしで、
実在しない“鬼”は祓えませんが、
外敵という意味にかぶせるということは多々あったようで。
その昔、大和だか奈良だかに立った政権が
北方にお住まいの人々に向けて、
わしらの膝下へ屈しなさいとし、
逆らうならばと排斥したその後づけ理由として、
勝手ながら“夷狄”と呼んだその上で、
彼らの所領があった丑寅の方角を“鬼門”としたそうですし。

 あ、これは平安京のお話じゃないので
 そっちはあんまり関係ないですね、すいません。

そもそもはその平安時代の宮中で、
大晦日に厄払いをした“追儺”という儀式が転じた代物。
よって、年男や年女の皆さんとそれから、
厄年の人は厄落とし、
厄を祓いましょうという日でもあります。
役者さんは“役”を落としてどうするかという意味合いから、
わざわざ祓ったりはしないとか、
ウチの境内には鬼なんかいませんからと、
福は内としか言わないとか。
ここまで歴史が長いことともなると、
いろいろ派生したものもあるようですが、

 「こっから暦は春に向かうぞ、
  でもまだ気を引き締めろよっていう、
  節目だって言いたい日なんだろ?」

グレーのレンズがはまった愛用のゴーグルを装着し、
お洋服は動きやすそうなデザインの
ダウンジャケットに迷彩色のアーマードパンツ。
肘や膝へのサポーターパッドを巻いてるのは、
ライフル型のマシンガンを、
一丁前にも地に伏せたりして構える所存か、
いやいや、ベンチへがっつり据えての
固め撃ちをやらかすつもりだったかららしく。
お耳にはファーつきのイヤーマフが何とも可愛らしい…

 「…ってのはサギだよな。」
 「つか、あれって耳栓代わりだろうが…どわわっ!」

パタラ・タタタタ…と乾いた音立て、
続けざまに放たれる弾幕に、
不平も中断させられての、
ひょえぇっと飛び上がって駆け出すアメフト部員を狙う銃口。
いやにじゃこじゃこ・じゃらじゃらとうるさいマガジンなのは、
中に入っているのが…弾丸じゃあないのは当然として、
よくあるBB弾でもなく、実は煎った大豆だから。

 「今年のって射程長くね?」
 「おお、第3コーナーまで届くなんて聞いてねぇ。」

トラック周回というランニングのペースが一人でも落ちると、
部員らへ容赦なく降りそそぐ炒り豆の弾幕は、
この時期には付き物というか、もはや例年のこととなっており。
一応 長袖長トレパンの上からなのと、
狙撃手さんの腕もいいので、
滅多な逃げ方をしない限りは、大怪我を負うほどじゃあないのだが。

 「そんでも射出音がすると、
  反射的に逃げたくなるもんだよな。」
 「まぁな。」

つか、逃げない方向への慣れがついちゃったら、
本物のテロや、凶悪犯と警察の銃撃戦が始まったのに居合わせた場合、
反射が働かずで非常に非常に危険ですので、
いっそ そこを陳情したらいかがでしょうか。

 「…欧米か、とか返されて終わりな気がする。」
 「ちょっと古いけどな。」

今だったら“俺だ俺だ俺だ俺だ”でしょうか。(何の話だ。)笑

 「こらぁ〜、そこの奴ら、ちんたら歩ってんじゃねぇよ。」

お子様の伸びやかなボーイソプラノがよく通り、
ついつい無駄話していた部員が二人ほど、
いやいや、どの子もが“自分か”と思ったらしく、
一斉にどひゃあと飛び上がって駆け足のペースを上げる。
そんな面々だったのを、
前髪を押し上げるようにした小さな手で
眉上に庇を作って眺め回しておいでの“鬼軍曹殿”のお隣では、

 「昨日の嘘みたいに暖かい中じゃあ、
  失速しかねなかったわよね。」

ラップタイムを記録しつつ、
ただ立ってるだけの身にはただただお寒いのでと、
チーム仕様のグラウンドコートや
レッグウォーマー、マフラーという防寒装備もきっちり整えたメグさんが、
いいお日和を眩しそうに見回して苦笑しておいで。
そう、昨日は何の冗談か、
お花見のころくらいという気温となったので、

 「まったくだぞ。」

金髪の軍曹殿なぞ、
町内会のクリーン作業に駆り出され、
ご家族で出掛けたまではよかったが、

 “妙に着込まされたもんだから、途中で熱中症起こしかけたもんな。”

父上の方が先にバテると思ったのに、
大丈夫か? お前は休んでな…なんて逆に気遣われ。
頭痛までしたもんだから、
背負われて帰ったのが微妙に悔しかったのだそうで。

  ……そこまで素直に甘えられないのって、
  もしかして子供の“自分で様”? それともツンデレ?(苦笑)

 「…(じゃきっ)」

 「これこら、そんなでも書き手だし、
  結構な年寄りなんだからいたわってやんな。」

坊やがライフル向けたのを、
制してくださったメグさんのお言いようも
実はぐっさり来ている筆者はともかく。(う〜ん)

 「ところで、ルイには何を言い付けたんだい?」

今日のトレーニングは、
体をほぐしてそのまま掛かった
このランニングのみというセッティング。
ランニングというよりミニマラソンほどの距離を設定したからだが、
そんな顔触れの中へ
いつもなら不公平なしに交じっておいでの
あの総長さんの姿がどこにもない。
何も訊いてないけどねぇと小首を傾げたメグさんだったのへ、

 「……俺が言った訳じゃねぇけどさ。」

彼女の差した目串通り、心当たりはありそうながら、
つか、何でそうなるかなとの不本意顔をする坊やであり。

 『今日はただ豆まきするだけじゃねぇぞ?』

練習が終わったら、恵方巻きを食べられるようにって、
支度もしてあるんだと言ったところが、

 『…それって、もうあらかた済んでんのか?』

少々眉間を曇らせて訊いて来た、我らが主将殿であり。

 『えっと、米はクラブハウスの炊飯器にセットしてあるぞ。』

海苔とかすしの素とかも用意したし、
椎茸も高野豆腐もカンピョウも
昨夜のうちに母ちゃんと煮といたから、

 『今日はあと、厚焼き玉子焼いて、キュウリを塩して切って、
  エビとミツバゆでて、それを巻いたらいいだけだ。』

 『…そか、そういうのが残っとるんか。』

材料もキッチンへ準備済みだぞ、
昼飯に間に合うよに、時間見て下がるからよ…との自信満々だった君だけど。
特に難しいことじゃあないと言いたいのは判らんではなかったが、
それでも……男臭いお顔をうんうんと頷かせると、
大きいお手々で頭をポンポンと撫でてやった坊やごと、
ツンさんや銀さんへ“後は任せた”と言い置き、
クラブハウスへ男らしくも去ってったキャプテンだったらしくって。


  ―― 鬼っ子にはグラウンドだけで
     暴れてもらいたかったんじゃあないでしょか。(大笑)


  「ああ"ん? なんだってぇ?」


こ、今年もみんな仲良く、厄も寄せずにお元気で過ごしましょうね?





     〜Fine〜  13.02.03.


  *それが市販のケーキミックスでホットケーキを焼くだけであれ、
   道具もさして揃ってなかったはずのキッチンでさえ、
   1日仕事で片付けにゃあならない惨状へ、
   あっさりと追い込む坊やですものねぇ。(どんなんや・笑)

   病気も災厄も、
   早期発見と予防が大事ですよってに。(まだ言うか)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

ご感想はこちらへ or 更新 & 拍手レス

戻る